当日のシンポジウムの様子は、アーカイブとしてオンライン配信されており、以下のURLから視聴いただけます。
『筑波技術大学 鍼灸学専攻ウェブサイト』
(https://www.k.tsukuba-tech.ac.jp/am/index.php/moving-image/)
本稿では、シンポジウムの内容をダイジェストにしてお伝えします。
1.講演1『ポストコロナの未来へ・眼科編』
講演1では、あさひがおか眼科院長の陳 進志先生にご講演いただきました。
講演の前半では、ロービジョンケアの基礎知識や障害等級の認定基準の変更に関する情報など、当事者や支援者にとって有用な眼科に関する知識をわかりやすくお話いただきました。また、視覚障害のある若い方々へのメッセージとして、セルフ・アドボカシー(当事者自身が自らの権利を擁護すること)の大切さや、視覚障害支援の広がりやICTの進歩などを例に挙げた上で、“未来は明るい”という力強いメッセージをいただきました。
講演の後半では、卒業生の西 梨沙さんをお招きし、陳先生、座長の佐々木 健准教授を交え、コロナ渦での視覚障害者の生活、また、ポストコロナに向けた社会のあり方についての対話が行われました。現在、訪問マッサージのお仕事をされている西さんからは、ご自身および視覚障害者の知人の生活現状についてお話があり、コロナ渦において、視覚障害者にとって重要な「触れること」への抵抗感が生じてしまっていることや、「触れること」の理解が社会に広がることへの期待について語られました。また、西さんが精力的に活動を行っているブラインドダンスを通じて、障害の有無を超えた人と人のつながりを実感した経験を紹介し、支援する側・される側という関係性を超えた、人と人とのつながりが大切なのではないかとお話されました。
陳先生、西さんのお話を通じ、コロナ渦における視覚障害者の現状と、ポストコロナに向けた希望が感じられた講演でした。
2.「鍼灸手技療法を知ろう」
講演1に続き、「鍼灸手技療法を知ろう」というテーマで、鍼灸学専攻の石崎 直人教授、殿山 希教授、鮎澤 聡教授による講演がありました。
石崎教授は、鍼灸治療をテーマに、鍼灸の歴史、日本・世界の現状について講演されました。日本の鍼灸治療は運動器系の症状に多く利用され、患者さんの満足度が高い治療であること、また、世界では鍼灸の科学研究や標準化の動きが活発で、論文数が急増していることなどについてお話がありました。
殿山教授は、手技療法(あん摩マッサージ指圧)をテーマに、歴史、教育、研究について講演されました。手技療法は様々な症状の治療に応用されていること、また、日本では視覚障害者の職業として定着しており、その多くが自らの仕事を愛し、生きがいをもってあん摩マッサージ指圧を職業としているという調査結果などについてお話がありました。
鮎澤教授は、統合医療をテーマに、東西医学の相違や鍼灸手技療法の特性について講演されました。人体を小宇宙とみなす東洋医学と宇宙物理学のつながりについて、また、伝統医療であるからこそ現代において全く新しい視点が必要とされることなどについて、スケールの大きなお話がありました。
本企画を通じ、古くから視覚障害との関わりの中で発展してきた鍼灸手技療法について、知り、考えるきっかけとなりました。
3.ランチョン企画『大学で鍼灸手技療法を学ぼう』
昼休みの時間には、ランチョン企画として、本シンポジウムのために作成された鍼灸学専攻の紹介動画が放映されました。動画には、専攻の教員による特色ある教育の紹介や、在校生・卒業生インタビューが収録され、今回、オンライン開催のため、キャンパスにおいでいただけなかった参加者の皆様に、鍼灸学専攻を知っていただく機会になりました。
4.講演2『ポストコロナの未来へ・就労編』
講演2では、おおごだ法律事務所代表の大胡田 誠先生にご講演いただきました。
講演では、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)19条裁判と、新しい就労支援の制度についてお話がありました。
あはき法19条は、視覚障害者の職業保護を目的として、国があん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の養成を制限できる法律ですが、現在、学校の新設を求め、国を相手取った裁判が行われています。多くの関係者の注目を集めている本裁判について、弁護士としての専門的な観点から、わかりやすく、その論点を解説いただきました。大胡田先生からは、見えないことで与えられる安心感、見えないことの価値が、視覚障害者による鍼灸手技療法のアピールになるのではないかというご提案がありました。
また、令和2年から重度障害者等就労支援特別事業として、通勤や職場等における支援が可能になりましたが、未だ十分には知られていない本制度について、その概要や留意点についてお話いただきました。特に、本制度は各自治体の任意判断で実施されるため、当事者自身が自治体に要望を出すことが大切であるとお話されました。
大胡田先生の高い専門性とユーモアを交えたご講演により、視覚障害者の生活や職業と関わりが深い法律について、理解を深める機会になりました。
5.対談『卒業から今日までの歩みと未来の同窓生へのメッセージ』
対談には、卒業生で、大阪医科薬科大学附属病院 麻酔科・ペインクリニック 技術職員の久下 浩史先生をお招きしました。
前半は、久下先生に、本学および卒後研修や大学院での学びについて、また、臨床・研究への取り組みや苦労について講演いただきました。お話の中では、大学で鍼灸手技療法を学ぶことの意義や、常に新たな情報に触れ、学友や教員と交流することの大切さについて触れ、未来の同窓生に向けての“大学生活を楽しんでほしい”というメッセージをいただきました。
後半は、聞き手の志村 まゆら准教授との対談形式で、スクリーンリーダー(音声読み上げソフト)を活用した研究活動、また、長い臨床・研究活動での失敗談などについてもお話いただきました。
本対談を通じ、鍼灸臨床・研究の最前線でご活躍されている久下先生ならではの鍼灸の魅力をお伝えいただきました。
6.特別講演『視覚に障害のある生徒の教育・個性豊かな我が子の子育て』
特別講演では、元北海道高等盲学校校長で、俳優・大泉 洋さんのお父様の大泉 恒彦先生にご講演いただきました。
大泉先生からは、ご自身の盲学校(視覚支援学校)教員としての経験や、洋さんの子育てエピソードについて、ユーモアを交えながらお話いただきました。ご講演の中では、特に幼少期においては、子どもの望むように育ててあげ、あなたは素晴らしいということを常に伝えることが大切であるとお話されました。
大泉先生からは、視覚障害教育に関する高い専門性と長年に渡る経験を踏まえ、子育てや教育に対する大切なメッセージを伝えていただきました。