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産業情報学科の学生がイベント運営者と共に情報保障の体制を作った話(後編)

※上写真:RSGT2024のパネルの前で記念撮影。右から齋藤さん、山元さん、藤江さん、船山さん。船山さんは今インタビューでは都合悪く参加できず。

Q9. RSGT2023の経験を通してRSGT2024では早くから情報保障のお願いを運営に伝えたと聞きました。

齋藤:7月期末試験前にRSGT実行委員メンバーが筑波大学で集中講義にいらしていると聞いて情報保障の相談に行きました。今度は手話通訳や文字通訳をしっかり依頼しようと思ったんですが、RSGT2024でどこまで提供していただけるか未知数だったので早めに見通しはつけおいたほうがお互いやりやすいかなと思いました。


Q10. 予算を組む際にも皆さんが参加することがわかっていたら予算計画に組み込まれやすいですものね。

全員:根回し大事ですよね。


Q11. 今度はどのような情報保障を依頼したのですか?

藤江:昨年の情報保障がなくて困った話と、今年の要望、情報保障としてこういった手段があって、こういう意図で求めているというのを伝えました。

齋藤:前回の反省を込めて、文字起こしの修正もつけて欲しいとか、手話通訳も必要とか、対話に参加するために手話通訳に帯同して欲しいとか、いろんな要望を話しました。その結果、運営委員の方から「情報保障バックログを作りましょう」と提案されました。


Q12. 情報保障バックログとは、どのようなものですか?

藤江:アジャイル開発に「プロダクトバックログ」というものがありまして、製品に必要とされる機能を優先順位順に並べて絶対に必要なものから開発をしていくのです。情報保障も同じように絶対に必要なものから順に並べ、予算やコストと付き合わせていこうということになりました。

齋藤:例えばすべての講演に情報保障が完備というのは現実的じゃないので、それよりも優先順位が高いところに「1つのトラックだけは文字修正通訳付きにする」という要件を書くとか(写真)。

藤江:こんな感じでバックログたててましたね。優先度が高い順に並べて、費用も自分たちで調べて会社ごとにまとめていました。わからない部分は本学に事務局があるPEPNet-Japan(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク)の先生方にも相談し、「こういった企業があるよ」って情報をいただきました。僕は普段からお世話になっているんですよ。通訳の依頼先はほとんどここで教えてもらったところを利用してもらいました。


RSGT2024で設計した情報保障バックログ

Q13. 皆さんで予算も調べたんですね。このバックログは皆さんだけで立てたのでしょうか?運営委員の方も参加されていましたか?

藤江:筑波大に相談に行った後、情報保障バックログを整理して、改めて運営委員の方々とZoomミーティングして共有したんですよね。運営委員の皆さんは情報保障の手段やツールなどご存知なかったので要件の意図や意味などを質問されて説明したり、イベントの流れからできそうなこと・出来なさそうなことなどを聞いて、改めて優先度を整理し直してまた依頼するいう流れで進めました。


Q14. 最終的にRSGT2024で提供された情報保障はどのようなものでしたか?

齋藤:基調講演なども行われるメイン会場で文字通訳(音声認識+修正)をつけてもらいました。また、期間中(3日間)手話通訳2名に待機してもらい、廊下や企業ブースなどで会話をしたいときに手話通訳ブースにいって帯同してもらったりしました。
文字通訳がない講演には手話通訳をお願いするという方法もできたので、結果的には聴講したい講演にはすべて聞くことができました。

藤江:手話通訳者さんには主に廊下での対話で通訳をしてもらうことを想定していたのですが、途中から講演の手話通訳もお願いしてやってもらってました。手話通訳者さんの柔軟な対応に感謝です。

RSGT2024の受付にて。左側に2名手話通訳者さんが待機しており、必要に応じて手話通訳を依頼する形をとりました。

齋藤:参加型のセッションに参加したかったので手話通訳者さんに帯同してもらい発言したりもしました。


参加型セッションで齋藤さんが発言する様子

Q15. RSGT2024参加してみていかがでしたか?

齋藤:聴講や対話に困ることはほぼなくて、学びや感想を共有できたのが楽しかったです。

藤江:終わった後に学びとか感想を共有できたのが最高に嬉しかったですね。昨年はとてもじゃないけど難しいことでした。

山元:狭い空間でたくさんのグループを形成し思い思いにトークが発生する場合には、手話通訳の方も聞き取りができないことがありました。そのときには、自前の音声認識を同時に使用しながらでした。1つの手法だけじゃなく、補助として複数の手法を試すというのが大事な気がします。運営の方にとっては準備したものを使ってもらえていないと感じられる可能性があるため、1つの手法だけでは不十分であるということを相談時に伝えておくことが大事なのかなと思いました。


Q16. RSGTには3日目にオープンスペーステクノロジー(OST)というイベントがあり、参加者が自由にテーマをだしてグループを作って議論することができる時間があります。皆さんはその中でテーマを出して話をしたそうですが、何を話したんですか?

齋藤:チームでの開発やイベント開催の時に情報保障どうする?をテーマに、情報保障のコストや準備期間、方法などから、すべての情報保障を用意することが難しいときの対応方法まで話しました。アジャイル関連のイベントや開発で聴覚障害者と一緒に参加する人に、「こういう情報保障あるよー」って知ってもらうのが目的でした。

RSGT2024のOST提案したテーマを説明する様子(右から齋藤さん、山元さん)

藤江:一例として、運営と当事者とのやりとりをオープンにすることで、ほかのイベントでの情報保障の参考になるような情報を提供したんですよね。文字通訳や手話通訳にかかった費用なども見積書を見せてもらったりして話しました。

齋藤:聴覚障害者が少人数なら手話通訳、多人数なら文字通訳にするのがコスパいいんだろうっていう話しました。また、情報保障の提供が難しいときの話でも盛り上がりました。チームでの議論でも常に擬似的な1対1の状況を作り出す、みんなでおてて繋いで付箋に意見書き書き、といったアイデアが出ました。とはいえ、普段使う音声コミュニケーションが使えないのはストレスになるという率直な意見もありました。


OSTでの議論の様子。スタッフさんが手話通訳の見積書を見せています。
OSTでで体験を付箋でまとめた様子

Q17. 担当された運営委員の方は今回情報保障を担当したことについて何か思ったことなど話していましたか?

齋藤:依頼が早く相談もできたので、「そんなに困ったことはない」っておっしゃってました。文字通訳は高いので手話通訳を増やす形がいいのかなと思いつつも、参加人数によって変わるから難しいかもっていうのもあるとも。

藤江:参加者の人数に応じて手話通訳を増やすと、予算がどうなるんだろう?という議論もありましたね。

渡辺(教員)からの補足:私も後日運営委員の方に話を聞いたのですが、RSGTでは海外からの参加者が多いのが特徴で、日本語での発表を海外参加者の方が聞くときに文字通訳がとても役に立ったと聞きました。文字通訳の内容をスマートフォンで英語に翻訳してそれを見ていたとか。来年以降も聴覚障害者の参加の有無に関わらず文字通訳を入れるとのことです。

Q18. 今回イベント運営者を含めて情報保障体制を作った経験は今後に活かせそうでしょうか?

齋藤:締切までの時間が1ヶ月以上あるイベントでそれなりに開催実績があるものなら同じ依頼方法で情報保障は提供してもらえそうという知見を得られました。自分のコミュニケーション方法を説明できるようになったのも、今後活かせると思います。

藤江:自分たちも開発サークルとかで、聴者をまじえてイベントをやるときに発信、受信ともに互いに伝わるような環境を用意したり、それから自分で学びを求めて参加するときに、これまでの経験や知見をもとに交渉できそうです。

Q19. イベント等に参加するろう・難聴の皆さんへ、情報保障の確保に関するアドバイスはありますか?

齋藤:必要なことは3つ!1つ、自分のコミュニケーション手段を理解して場合に応じた情報保障手段を知ること!2つ、主催者と”共に”用意するんだという気持ちを持つこと!3つ、断られても2024年4月からは法律(すべての事業者は合理的配慮を提供する義務がある)が助けてくれることを知ること!

藤江・山元:大事だ。さすが!

Q20. 情報保障を提供する運営スタッフさんへのアドバイスやお願いしたいことなどありますか?

藤江:参加者に障害がある方がいることがわかったら、参加するにあたって難しいことがあるかどうかの確認をしてほしいです。また、そういった情報保障などの要望、相談があったときにできる限りでいいので、対応してほしいです。あと情報保障があるのなら、その旨ホームページに記載しておいてほしいです。問い合わせするという行為そのものが結構精神的ハードルが高くて、知らない人同士だととくに、情報保障がないなら、参加をやめようとなることもあると思います。

齋藤:問い合わせフォームの種類に「情報保障の相談」をデフォルトで置いて欲しい。それだけでも、情報保障依頼のハードルは下がる。聴覚障害だけに限らないから「合理的配慮の相談・依頼」かな。

いろんな方々に役に立つ実践的な経験談本当にありがとうございました!

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