保健科学部は、視覚の障害がある学生のための学部で、保健学科(鍼灸学専攻、理学療法学専攻)と情報システム学科で構成されています。視覚の障害がある人のコミュニケーションや情報収集は、主に会話や音声、手で触れて行うため、接触や飛沫を介して感染を引き起こす感染症に対しては十分な対策が必要です。これまでも、インフルエンザの流行時期などは特に注意し、保健管理センターが中心になり学部全体での感染防止対策を行ってきましたが、今年から世界的に爆発的な流行を見る新型コロナウィルスに対しても、更なる対策を講じて学生達の安全確保に努めています。
未知であった新型コロナウィルスの情報が十分存在しなかった4月から6月までの期間、本学においても入学式やオリエンテーションなどの大学キャンパス内でのイベントは全て中止し、連絡や授業などはオンラインシステムで行ってきました。その後、7月より理学療法学専攻が、9月からは鍼灸学専攻と情報システム学科が大学キャンパス内での対面授業を開始しました。感染症には敏感な本学部が、4月の新年度開始以降、そして、7月および9月からの対面授業の開始以降に行ってきた感染防止対策についてご紹介いたします。
保健管理センターの活動について
4月の新学期開始と同時に、学生自身による自主的な体調管理の習慣化(教育)を目的に、オンラインでの体調報告を開始しました。学生は、毎朝の検温結果をその日の体調内容と併せて健康アンケートサイトに報告をし、その結果を保健管理センターの職員が毎朝チェックします。万が一、発熱等が報告された際には、関係各所に連絡が入り迅速に適切な対応を取ることが出来るよう、各部署に指示や情報共有などを出しながら協働しています。これにより、新型コロナ感染以外の体調不良にもより繊細なサポートが行えるようになったため、授業等担当する教員も非常に助かっています。
加えて、キャンパス内では、学生も教職員もマスク着用を基本としており、手洗いと手指消毒の実施を勧めています。この様な基本的な感染対策の指導や、キャンパス内の共用部分への消毒薬の設置も保健管理センターが行っています。
各学科・専攻の感染防止対策について
学部内の全ての教室と実習室のドアには、感染防御に必要な対応のポイントと授業に出る際の注意点が書かれたパウチが貼付されており、常に感染防御対策の基本をチェックできるようになっています。加えて、教員による授業開始前の健康チェックと手指消毒に加え、授業終了後の机や機器・器具類の消毒が行われています。
ここからは、各学科・専攻が、それぞれの授業形式に合わせて行っている対策法についてご紹介します。
情報システム学科では、基本的に机に座った状態でパソコン操作や機器の組み立てなどを行う授業を行っています。デスクトップコンピューターを設置した机が並んだ教室では、パソコンが置かれた机と机の間にデスクワゴンをいれ、机同士の距離を広げました。これにより、机に座る学生同士の距離が保てるようになりました。デスクワゴンの上には手指消毒薬や殺菌クロスなどの消毒用品を設置し、常に清潔でいられるような工夫も行っています。
また、グループワーク用の教室では、各自ラップトップパソコンを持ち寄り、部屋の中央に設置した大きなディスカッションテーブルを囲んで授業を受けますが、向かい合って座った者同士の間での飛沫のやり取りを防止するよう大きなアクリル板を設置しました。アクリル板は無色透明で、目が見えない、見えにくい学生さんには認識が困難な対象です。仮にぶつかっても怪我などしない、そして倒れにくい構造のものを、安全な位置に設置しています。
一方、保健学科の一般教室では、教卓上にはアクリル板を、窓際には換気用のサーキュレーターを設置しました。授業中は常に窓や出入口を開放し、換気を十分に行っています。教室に入室する前に、授業担当教員による検温と体調のチェックが行われ、教室内では座席指定により学生間の社会的距離を確保しています。
鍼灸学専攻も理学療法学専攻も、技術習得のための実習授業が多く開講されています。実習室では、学生同士がペアになって互いに様々な技術の練習を行うため、社会的距離が保ちにくい状況になります。その為、マスクに加えフェイスシールドを着用します。
松葉づえや車いすをお使いの方の介助技術を学ぶ実習は、教室ではなくキャンパス周辺の歩道などで行われます。患者役の学生に医療者役の学生が寄り添って歩くため学生同士の距離は近くなりますが、屋外のためフェイスシールドまでは必要とせず、マスクのみの着用で実習を行っています。
保健科学部附属東西医学統合医療センター(医師外来、検査室、鍼灸施術所、リハビリテーション室)での臨床実習も行っています。実際に来院された患者さんに協力いただき実習を行いますが、患者さんは健康上何某かの問題を持った方が殆どであるため、患者―患者間、患者―医療者間の良好な環境の確保を、教室で行われる授業よりも厳密に行う必要があります。
実習前の検温や体調チェックに加え、患者さんとの距離の確保、治療室内が密にならない様な環境管理に気を配りながら実習を行いつつ、医療機関における消毒や感染管理法の実際についても学びます。
新型コロナウィルス感染の流行がもたらした貴重な学びの機会
今回紹介した保健科学部における新型コロナウィルス感染防止対策も、今では完全に習慣化しました。個人で行う感染対策、キャンパスという公共の場で行う感染対策、場の目的に応じた感染対策方法の違いなど、多くのことを学び、そして実践へと結びついています。ポストコロナで状況が変わっても、維持していくべき良い習慣も数多くあります。
今回の経験を通して、多くの学生は自分の体調により一層の興味と責任を感じるようになったようです。これは社会人として必要な要素であり、自立支援を目標に掲げる本学にとっては喜ばしいことです。一般的に慣れが生じるとミスが生じやすくなりますが、本学学生は現状を十分理解しており、気を抜かずに地道に感染対策を続けてくれています。この地道で小さな積み重ねが、安全な環境を維持してこられた大きな要因だと確信しています。
キャンパス内で行われる全ての対面授業は10月末で終了し、11月からは原則としてオンライン授業のみとなりますが、紹介した感染対策は継続して行い、来年度も学生が安心してキャンパス内で学べる環境を作っていきます。