様々な分野で学ぶ
2016年4月1日から施行された障害者差別解消法(正式名称「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)に対する大学等高等教育機関(以下、大学)の理解が進み、以前より多くの視覚に障害のある学生が大学へ進学するようになりました。
大学で学ぶ視覚に障害のある学生数は施行前の2015年度に755名でしたが、2019年度には887名と大幅に増えています(日本学生支援機構「短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」)。
学生にとっては学びたい分野を自ら選択できるようになることは大変望ましいことであり、視覚障害学生を受け入れた経験が無い/経験が少ない大学へ進学したり、はじめての学部・学科に入学したりすることも増えていくでしょう。
一方、点字で表された教科書や学修資料、音声で読み上げられる電子書籍についてはまだまだ少なく、視覚に障害のある学生に対する就学環境が整っているとは言えない状況です。
視覚障害者の見え方は多様で、視力や視野など視機能の違いだけではなく、点字習得の有無、情報保障機器の使いこなし方の違いが教材の理解に大きく影響します。また、大学の講義内容は非常に多岐にわたり、専門分野に精通した点訳者のいない大学が、学生ごとに教材を整備することは簡単ではないことも事実です。
アクセシブルな学修資料の提供を目指して
本学の障害者高等教育研究支援センターでは、これまでも『視覚障害者用教材整備プロジェクト』(2006年度〜2015年度)として、点字・電子書籍教材の提供や、点訳者の育成など就学環境の整備をおこなってきました。
2016年度からは、多様な分野へ進学出来る様になった現状を踏まえ、『視覚障害学生のための修学・就職支援を目的としたアクセシブル教材を利活用したアクティブラーニング環境構築事業』として、これまでおこなってきた「視覚障害学生用授業・学修資料の整備」だけでなく、「ユニバーサル教材提供サービス(通称、メディア変換サービス)」の提供をおこなっています。
プロジェクトの活動
プロジェクトでは、以下の様な活動をおこなってきました。
視覚障害学生用授業・学修資料の整備
多くの大学等で教科書として採用されている、専門性が高く、点訳されていない書籍を点訳・音訳等して提供しています。
以前のプロジェクトでは、主に理系分野に関する学修教材を提供してきましたが、多様化する進学先の分野に対応するため、哲学・歴史・社会科学・芸術といった理系分野以外の整備にも力を入れており、大学教科書としてのロングセラー本を選書して、これまでに計130冊を点訳し、2021年3月現在においての提供件数はのべ52件となっています。
【本プロジェクトWebページ: 点訳完成図書リスト】
また、国会図書館の“視覚障害者用データの収集”事業に賛同し、本学で制作した大学教科書の点訳書およびDAISY図書を提供しており、前プロジェクトも含めて、これまでに計192件を提供しています。最近では「レポート・論文の書き方入門」「大学で勉強する方法」などが多く利用されています。
授業・学修資料の整備へのお問い合わせ・ご依頼に関しましては、
担当:授業・学修資料の整備窓口
メールアドレス:order[at]ntut-braille-net.org
までメールでお知らせください。
※メールアドレスの[at]は@に置き換えてください。
メディア変換サービス
「メディア変換サービス」は、2019年度末よりスタートしたサービスで、講義等で使用する教科書を始めとする教材・学修資料を、学生の視覚障害特性に合わせて、点字・DAISY・拡大文字などのメディアに変換し提供するものです。
例えば、「教材のテキストデータはあるが、点字データがない」「PDFはあるが、音声DAISYが必要」など、学生のニーズに合わせた形式が必要な場合に利用されています。
これまで、点訳はもちろん、テキストデータ・PDFデータなどで提供しており、必要であれば、点字を印刷して送付しています。2021年3月現在においての依頼実績としては、のべ12校に対してメディア変換をおこなっており、分野は英語・数学・物理・世界史・保健などで多岐にわたっています。また、内容も高校1年生向けから、大学院の専門書まで幅広い対応をおこなっています。
メディア変換サービスへのお問い合わせ・ご依頼に関しましては、
担当者:メディア変換サービス窓口
メールアドレス:order2[at]ntut-braille-net.org
までメールでお知らせください。
※メールアドレスの[at]は@に置き換えてください。
なお、本サービスは、迅速な対応を目指しており、教材・資料の利用箇所・提供時期など、授業担当の先生等と綿密なやり取りをおこなっております。そのため、ご依頼主としては大学の支援担当窓口を想定しておりますことをあらかじめご了解ください。
これからの活動
今後も視覚障害学生用授業・学修資料の整備の活動を一層推進するために、点訳作業の効率化を図るためのテキストデータを提供していただける提携出版社をさらに増やし、点訳書のジャンルを増やす予定です。また、第二外国語など、これまで対応できなかった分野にも対応していくために学外の点訳グループや、大学の点訳サークルとの相互の協力体制を整えたいと考えています。このように、支援できる人数・分野の拡充を進めて行き、大学で学ぶ視覚に障害のある学生の就学支援を拡大していきます。