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共生社会創成学部オープンキャンパス(天久保)報告ー白澤教授インタビューー

――本日はお忙しい中ありがとうございます。まず、今回のオープンキャンパスで実施した企画とそのねらいについて教えていただけますか?

白澤先生:今回のねらいの一つは、先輩たち(共生社会創成学科1期生)とオープンキャンパスに来てくれた方達が仲良くなって、「こういう先輩の元で一緒に勉強したい」と思えるような関係性を作ることでした。技大の魅力は、やっぱり「同じ障害のある仲間がいる」ということだと思うので、それを入学前から体験してほしかったんです。その結果、先輩や生徒さん同士の間でつながりができて、「あの子と一緒に勉強できるのだったら行きたい」とか、「入学試験も、あの子と一緒なら頑張れる」っていうような、そういう関係性が作れたら最高だなと。
そのために、「クイズで学ぶ『共生社会』ってなんだろう?① -視覚障害学生の生活について知ろう-」という企画では、グループのメンバーで話し合いをしてもらい、私と参加者の関係だけではなくて、参加者同士の「横の関係」を意図的に作れるよう工夫しました。その上で、次の企画に行く前に先輩と実際にやりとりする「きかせて、先輩!授業・学生生活のリアル」を入れて、大学生活のことを知ってもらい、「縦のつながり」を強化しました。同様の企画を午後にも入れて、「縦の関係」と「横の関係」を交互に組み合わせたわけです。
また、参加してくれた生徒さんには、共生社会創成学部の先輩からの「ぜひ頑張ってね」という手書きのメッセージカードをお土産としてお渡ししました。
 

「クイズで学ぶ『共生社会』ってなんだろう?』での一幕
 

――入学前から縦と横の「つながり」を作っていくというのは、本学の強みを活かしたユニークな取り組みですね。

白澤先生:そうなんです。特に普通校から来た参加者は、身の回りに同じ障害を持った仲間がいる環境を知らないと思いますし、聾学校の学生さんであっても、最近は人数が減ってきているので、1クラスにこれだけたくさんの学生たちがいて、多くの人たちとつながれるという環境はなかなかないと思います。ですので、全国あちこちから来ている生徒同士もつながることのできる場としてオープンキャンパスを体験してもらえればと考えました。
 

――企画の中でも特に「共生社会創成学部らしさ」が出たものは何でしょうか?

白澤先生:やはり、視覚障害の学生たちと話せる機会を作ったのは、この学部にしかできない特徴的な企画だったと思います。短い時間で私たちの魅力をたっぷりと詰め込みたかったので、春日キャンパスで学ぶ視覚障害の学生たちに協力してもらい、自分たちの生活にまつわるクイズを出してもらったんです。
 

視覚障害の学生と聴覚障害の学生が一緒にコミュニケーションを取る様子
 

――4月に学部が始まって、視覚障害の学生と聴覚障害の学生がキャンパスを跨いで交流していると伺いましたが、オープンキャンパスでもその様子が伝わる企画だったのですね。

白澤先生:はい。当日は、天久保キャンパスの先輩たちが、視覚障害の学生たちと話をしている様子や、やり取りのモデルを自然に見せてくれました。聴覚障害の学生が視覚障害の学生と学べる機会は、学生たちの世界をものすごく広げます。実際、4月の交流企画では素晴らしい光景が見られました。春日キャンパスの学生が簡単な手話で自己紹介をしてくれたり、「何か覚えるといい手話はありますか?」と質問してくれて、天久保キャンパスの学生が『技大』という手話を手を取りながら教えたり。
また、合同授業でもう少し深いやり取りが必要になった際には、音声認識アプリなどを試した末に、最終的に「LINEでやり取りするのが一番早い」という最適解を学生たち自身が見つけ出していました。音声認識アプリも一定の利用可能性はあるのですが、春日キャンパスの学生たちにとっては、どの程度文字化されているかがわからないので、認識されやすい話し方というのがわかりづらいようでした。また、天久保キャンパスの学生が入力した文字を合成音声で読み上げる方法も試したようなのですが、今度は天久保キャンパスの学生がどの程度の音量で音声を出したらいいかがわからず、うまく聞こえなかったりして、時間がかかってしまったようです。こういう試行錯誤の上で、「LINEが使いやすい!」ということを発見したようですが、こういう当事者同士だからこその発見が、この学部の面白さだあと思いました。
オープンキャンパスでも、参加者から「聴覚障害と視覚障害のある学生同士の交流や同じ場で学ぶことは面白い」と言っていただけましたし、皆さん目を輝かせながら「こういうことをもっと勉強したい」と話してくれました。共生社会創成学部が何をするところかが、直感的に伝わったのだと思います。
 

――企画で活躍された1期生の皆さんも頼もしい存在だったそうですね。

白澤先生:ええ、本当に。一年生ですが、目的意識を持って入ってきているので、自分たちのことを語る時にも、すごくしっかりした言葉で語るんです。高校生たちが何に不安を感じているかをよく汲み取ってアドバイスしていました。例えば、テスト勉強の準備の仕方だけでなく、引っ越しの準備で困ったことの具体的な説明や、実際大学に入って分かったことについて、自分の経験をリアルにわかりやすく伝えてくれたのは嬉しかったですね。もう、さすがだなと。

一般大と本学の授業の様子の違いに関するデモンストレーション。音声認識や字幕だけでは伝わりにくいことを解説
 

――その他に、参加者の印象に残った企画はありましたか?

白澤先生:一般大学と技大の違いをデモンストレーションした企画も、インパクトがあったようです。企画の中では、何も支援手段がない場合と、音声認識による字幕を利用した場合、そしてパソコン文字通訳をつけた場合、さらに技大だったらどんな授業をするかというのをデモンストレーションで見てもらいました。すると、参加してくれた生徒たちが「ああ、そういうことか!」と深く汲み取った表情をされていたのが印象的でしたね。
今は、一般大学でも合理的配慮の提供が義務化されているので、皆なんとかなるだろうと思って大学へ行くのですが、実際には提供されている合理的配慮の内容は大学によって格差が大きく、期待通りに授業を受けられないこともあります。実際、大学に入ってからこうした現実に直面して、苦しんでいる聴覚障害学生も多いので、これから大学に行くみなさんには、ぜひそうした現状を事前に知った上で、進路を選択できる環境があるといいだろうと思っています。そういう意味で、こういう企画は技大の宣伝という意味だけではなく、すべての受験生にとって重要な学びになるだろうなと思っています。
 

――オープンキャンパス後も、高校生とのつながりを継続する取り組みをされているとか。

白澤先生:はい。聴覚コースは定員5名という狭き門なので、やはりこちらから積極的にリーチしていかないと生徒たちに届かないと思い、公式LINEやYouTubeチャンネルで継続的に情報を発信しています。YouTubeでは毎月LIVE配信をしていて、再生回数も100回を超えています。通常のYouTubeチャンネルと比べると、全然少ないですが、この狭い業界の中で注目してくれている人がいるのは本当にありがたいことです。
このYouTubeの中では、全学のオープンキャンパスだけでは伝えきれない学部の魅力を、じっくり語っています。例えば「共生社会創成学部ってどんなところ?」とか、「受験勉強のコツ」とか。先ほどお話しした筑波技術大学と一般大学の違いについても、7月の生配信で取り上げる予定なので、ぜひご覧いただけると嬉しいです(現在は、アーカイブ公開中)
 

――なるほど、今後検討しているイベントなどはありますか?

白澤先生:共生社会創成学部でぜひやってみたいのが「一日体験入学」のようなイベントです。受験生にとって、共生社会創成学部の学生がどんな大学生活を送っているかは実感しにくい部分だと思うんです。そこで、朝大学に来て、体育や数学といった普通の授業と、共生社会の特徴が出た科目を大学生に混じって体験してもらう。そして先輩と一緒にお昼ご飯を買いに行って、ご飯を食べて、サークル活動までやって帰る。大学のリアルを丸ごと体感できるイベントができないかと考えています。できれば一泊して、寄宿舎で自分で洗濯したり、皆でお風呂に入ったり、そういうところまで体験できたら最高なんですが。
というのも、私が隔年で担当しているロチェスター工科大学への短期留学では、現地の学生とペアを組んで1週間の大学生活を共に体験することにしているんです。これが学生たちにとって非常に評判がいいんですよね。教員が悩んで組んだプログラムよりも、学生同士で過ごす普通の大学生活こそが、彼らにとって最大の学びになるんです。一週間が終わる頃には皆で泣きながらハグをしたり、わざわざ空港にまで見送りに来てくれるような。そういう体験を高校生にもさせてあげたいなと。特に視覚障害の学生にとっては、大学生活への不安も大きいと思うので、実際に体験してみることが何より大事になるでしょう。
将来的には、高校生だけでなく、一般大学から本学への留学もできるといいですね。支援者養成の面でも意味がありますし、単位互換にもつなげられたらなんて考えているところです。
 

共生社会創成学部の未来について語る白澤教授
 

――学外との連携についてはいかがでしょうか。学部の学びは社会とどう繋がっていきますか?

白澤先生:それは非常に重要視しています。共生社会創成学部には「共生社会創成プロジェクト実習」という必修授業があるのですが、ここでは、まさに学外とのコラボレーションをたくさん計画しています。
一つは、筑波大学など近隣の大学の学生と一緒に、社会問題の解決につながるプロジェクトを企画すること。もう一つは、企業とのコラボです。企業が抱えるアクセシビリティ上の課題に対し、学生たちが当事者視点で解決策を含んだワークショップを提供することを考えています。彼/彼女らの力がどこまで及ぶかわかりませんが、学生たちにとっては大きな成長の機会になるはずです。
また、共生社会創成学部の学生にとって、「コラボ力」は非常に重要な力だと思っています。共生社会創成学部の学生は、必ずしも自分でプログラミングができるとは限りません。けれども、そうした技術を持つ人と「コラボ」することで、可能性は無限大に広がります。どの分野の人とも一緒に仕事をして、社会のアクセシビリティを改善していく。そういう「コラボ上手」な人材を育てていきたいですね。
 

――本学だからこそできる、視覚障害と聴覚障害の学生がタッグを組んで社会に出ていくことも可能ですね。

白澤先生:まさに、そうです。それって、めっちゃイノベーションですよね。外からのコラボ依頼もどんどん増えると思います。もちろん、これまでにも本学の学生たちは、そうした面で活躍してくれていたわけですが、共生社会創成学部の学生たちが、さらに広げていってくれると嬉しいです。
 

――では最後の質問です。共生社会創成学部を受験するにあたって、どんな考え方を持っている人がおすすめですか?

白澤先生:やはりダイバーシティやアクセシビリティに興味を持って、色々な情報にアンテナを張っていてほしいですね。自分の困りごとはもちろん、他の人たちの困りごとがどこに潜んでいるか、身近な生活の中で発見できるようになってほしい。そして、それをどうすれば解決できるか、街の中の様々なものからヒントを得てほしいんです。

例えば、最近、授業で学生から出たのが「洗濯機の終了音が聞こえない」という困りごとでした。本学の寄宿舎では、5~6人がユニットという単位で共同生活をしているわけですが、その中で誰かが洗濯機を使っていたら、その間、洗濯ができないから待たなくてはいけないんですね。同時に、自分が洗濯をするときも、洗濯物を置きっぱなしにしたら他の人の迷惑になるんです。でも、ピーピーという洗濯機の終了音が聞こえないから、いつ終わったかがわからないと。そこで「終了をスマホに通知してくれたらいいのに」というアイデアが出たんです。それって、聞こえない学生だけでなく、皆にとっても絶対に役に立つ機能ですよね。
今の洗濯機にそうした機能の付いたものがあるかどうかはわかりませんが、そういう当事者ならではのアイデアって、実は世の中を変えていくすごく大きな原動力になると思うんです。そういう意味で、本学の学生達は、他の人にはない素晴らしい「センサー」を持っているはずです。なので、そのセンサーをぜひ研ぎ澄ましてほしいです。そして「小さな不便」さを諦めず、どんどん「贅沢」になってほしいし、そのアイデアを世の中のいろいろな人のハッピーにつなげてほしい。その源を、今のうちに磨いておいてほしいですね。
 

――文系・理系といった枠組みは関係ないのでしょうか。

白澤先生:まったく関係ありません。アクセシビリティは、プログラミングのような技術で解決できるものもあれば、人の手やコミュニケーションによってしか解決できないものもあります。それを幅広く扱うのがこの分野です。どちらが得意な学生でも、その力を活かせる場が必ずあるので、ぜひ幅広く挑戦してほしいです。
 

――本日は、学部の熱い想いが伝わるお話をありがとうございました。

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