産業情報学科の学生がイベント運営者と共に情報保障の体制を作った話(前編)
在学生  

産業情報学科の学生がイベント運営者と共に情報保障の体制を作った話(前編)

筑波技術大学の学生は大学で授業を受けるだけではなく技術勉強会や学会発表などさまざまなイベントに参加することがあります。その際に必須となるのが情報保障です。ただ、情報保障を依頼してもイベント運営者が提供の仕方がわからず戸惑うケースなどもあります。本記事では Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)という、チームや組織でのソフトウエア開発に関するイベントに参加した産業技術学部の学生たちが、情報保障の体制をイベント主催者と一緒に考えて作り上げた話をお聞きしたいと思います。

お話を伺ったのは、産業技術学部産業情報学科情報科学コース3年の齋藤光貴(さいとう こうき)さん、産業情報学科情報科学コース4年の山元颯斗(やまもと はやと)さん、産業情報学科支援技術学コース4年の藤江匠汰さん(ふじえ しょうた)さんです。

※上写真:RSGT2024のパネルの前で記念撮影。右から齋藤さん、山元さん、藤江さん、船山さん。船山さんは今インタビューでは都合悪く参加できず。

Q1. まずRSGTというイベントはどんなイベントなんですか?

藤江:チームや組織でソフトウエア開発をする際に顧客が本当に必要なものを柔軟迅速に開発する指針にアジャイル開発があり、その実現方法の一つにスクラムというフレームワークがあります。RSGTはアジャイル開発やスクラムを実践する人が集い垣根を越えて語り合う場として毎年1月に東京で開催されています。
参考:Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)のウェブサイト

齋藤:アジャイルやスクラムの実践に関する発表やワークショップもあるんですけど、ギャザリングという名の通り、参加者同志の交流がとても盛んで、ラウンジや廊下でスクラムを愛する人たちがワイワイと盛り上がっているイベントです。


Q2.このイベントにはいつから参加しているのですか?

藤江:RSGT2023、つまり昨年度から参加。昨年は山元さんと齋藤さんと登壇しました。

齋藤:産業技術学部の科目「産業プロジェクトC/D」の講義でアジャイル開発の集中講義AgileMiniCampを受け、4日間で得られた学びが思ったより壮大だったので自慢したいと思い発表を申し込みました。

藤江:昨年の登壇に関しては、本学Webページのトピックスでも紹介されました。聴覚障害がある学生同士でアジャイル開発をやってみて、その最中で起きたコミュニケーションのズレに対して、工夫したこと、試したことについて話しました。臆さない発言環境の形成が大事という結論でしたね。


RSGT2023にて投稿したプロポーザル。146件中58件採択された中の一つとして登壇しました。

Q3. なるほど、臆さない発言環境の形成、面白そうですね!早速情報保障の話に入っていこうと思います。RSGT2023に参加した時、このイベントでは最初から情報保障が提供されていたのですか?

山元:僕たちが参加する前は聴覚障害者が参加したことがなかったようで、情報保障は提供されていなかったようです。

齋藤:僕たちもRSGT2023の時は情報保障を依頼することを考えていなくて、最初にアプローチしたのは確か開催1週間前ぐらいだったような記憶があります。

藤江:産業プロジェクトC/D担当の渡辺先生から「情報保障の依頼はしないの?」とお声がけしていただいて、急遽連絡をしたんです。そうしたら初めてのことで何をどう準備したら良いかわからないからと実行委員の方がZoomミーティングの場を用意してくださり、Zoomで相談をしました。


Q4. ずいぶんギリギリだったんですね。最終的にどんな情報保障が提供されたのでしょうか?

藤江:全ての登壇がハイブリッド(対面と同時にZoomで配信)だったので、Zoomの自動文字起こし機能をオンにしていただきました。発表は会場で聞いたのですが、同時にZoomを立ち上げてそこで字幕を見ていました。また口元が見えるマスクを参加者全員に配布してもらいました(補足:2023年1月時点ではほとんどの人がマスクをしていた)。

齋藤:Zoomの文字起こしだと修正がなく不完全な場合が多かったので、それに合わせて個人で音声認識アプリを使い、それらを合わせて読み取っていました。

山元:PCの仮想マイクを使ってZoomの音声を音声認識アプリに入れ認識させてましたね。

齋藤:発表の中で寸劇をする人がいて、その人たちが事前に台本を提供してくれました。

山元:これめちゃくちゃ助かりました。


Q5. なるほど、手話通訳や文字通訳はRSGT2023時点では依頼しなかったんですね。登壇はどのようにしたのですか?

藤江:口話のひとはそのまま口話で、手話のひとは手話をつかいました。手話の読み取りも自分たちでやりましたね。字幕は、スライドに全部つけていました。

山元:登壇用スライド(本編)と字幕スライドを用意して、OBS(Open Broadcaster Software)で重ね合わせて投影しました。どのような発表手段でも伝わるように工夫しました。テーマが臆さない発言環境の形成ということで、聴覚障害があってもなくてもという部分を強調したかったので写真のような方法を採用しました。


RSGT2023での登壇の様子

Q6. 講演や登壇に関する情報保障は十分に受けられましたか?

藤江:音響環境は充実してて、伝音性難聴の自分にとっては、十分な音量でした。

齋藤:僕は感音性難聴なんですが、音声認識の誤認識が多すぎて文字起こしを追っても内容理解は難しかったですね。


Q7. RSGTは発表以外に参加者同士が廊下で頻繁に対話をするのが特徴とありましたが、そのような対話に参加するための情報保障はあったのですか?

藤江:そのような情報保障は運営では用意されなかったので、一緒にRSGTに参加した渡辺先生の提案でコーヒーコーナーがある部屋に聴覚障害のある学生、参加者と話すための「うきうきテーブル」を用意しました。文字起こしアプリでの音声認識結果を透明ディスプレイに表示したり、筆談道具を用意したテーブルでした。その場所は他に比べて静かな場所でしたね。


RSGT2023の「うきうきテーブル」で文字起こしを見ながら会話している様子

Q8. うきうきテーブルで参加者同士の対話はできましたか?

齋藤:対話できなかったですね。誤認識多すぎて会話の内容がさっぱりわからず。

山元:周りの方々に誤認識の修正をお願いしたのですがほとんど修正してもらえず、修正してもらっても会話の流れに対して遅れて表示されるので対話にはあまり役に立ちませんでした。

藤江:口話のひとはそのまま口話で、手話のひとは手話をつかいました。手話の読み取りも自分たちでやりましたね。字幕は、スライドに全部つけていました。その時の記録をブログ記事にしていますのでぜひ読んでください。
https://note.com/fujiemon_tad/n/n616e6315fc86
https://note.com/yamamon_tad/n/n70ff33530865