【おさらい&今回の見どころ!】
第1回では、ギャローデット大学のキャンパスや授業の様子、「デフスペース」に代表される環境設計、そしてASLによるプレゼンテーションの工夫などを通して、情報保障の大切さや伝え方の多様性について学びました!
第2回では、聴覚障害児に関する教育や支援を中心に、ML2(Motion Light Lab)による手話教材の開発、レジリエンスセンターの心理的支援、言語剥奪の課題に触れ、聴覚障害児を取り巻く多角的な支援と、誰もが学びやすい環境づくりの重要性について考察したことを紹介していきます!
3月8日~18日、アメリカ・ワシントンD.C.にあるギャローデット大学で研修を受けたり、ワシントンD.C.を観光したりしてきました。参加のきっかけは、主に以下の3点です。
・多様な文化や価値観に触れ、固定観念にとらわれない柔軟な思考力を身につけたい
・米国の情報保障システムや教育環境を学び、日本の教育現場にも応用したい
・聴覚障害児に関する教育・支援法を学び、未来のロールモデルとなる教員を目指したい
本連載では、3回にわたってこの研修の内容や感じたことを紹介していきます。
第1回:初のギャローデット大学へ!―ろう者の文化と大学生活の入口―
第2回(今回):ろう教育と支援の最前線―ギャローデット大学での教育・支援に学ぶこと―
第3回:ワシントンD.C.観光&国際交流記!
第2回:ろう教育と支援の最前線―ギャローデット大学での教育・支援に学ぶこと―
【特に印象に残ったこと(後半)】
◆ ML2(Motion Light Lab)の活動内容
ML2では、主に聴覚障害児向けの手話教材の作成が行われています。手話・文章・絵など、異なるモードで学べる点において、聴覚障害教育に活かせる可能性を感じました。なぜなら、日本の聴覚障害教育では、一般学校と同じ教科書(場合によっては1学年下の教科書)を使用することがあり、耳からの情報が得られないことで文章の意味を把握するのが難しいという課題があるからです。また、ろう学校の教員の多くが日本語対応手話を使用しており、日本手話の方が理解しやすい生徒にとっては違和感や不満を覚えることもあります。個々に応じた教育を実現するには、多様な学習モードを選べる環境づくりが重要であり、そのヒントを得ることができました。
また、ML2の教材ラフ案を見せていただき、親しみやすいデザインや、子どもが興味を持ちやすい工夫が随所に施されていると感じました。さらに、AIによる手話の誤りの指摘について質問したところ、現時点では難しく、例えば日本の指文字「う」と「と」のようなよく似た形の正確な識別が課題であると教えていただきました。この課題は本学の研究テーマとも共通しており、今後の技術発展が期待される分野だと感じました!
編集註:日本の指文字「う」は、人差し指と中指を伸ばし、他の三指を握り、掌側を相手に向ける。「と」は、同じ手の形で手の甲側を相手に向ける。
◆ 聴覚障害児への心理的アプローチ

◆ 言語剥奪の問題
これもレジリエンスセンターの紹介時に話があったテーマです。私は本学に進学する以前、音声日本語と手話を併用してコミュニケーションを取っていましたが、家庭では音声日本語のみという環境で育ちました。進学後、学生同士の交流のなかで「ろう者」と「難聴者」のグループが自然に分かれていることに気づきました。「ろう者」のグループでは手話のスピードが速く、音声は一切使われないためついていくのが難しく、一方、「難聴者」のグループでは多くが一般校出身で手話をほとんど使わず、会話のテンポが速すぎて理解が追いつきませんでした。
その結果、自分のアイデンティティが「ろう」なのか「難聴」なのか分からなくなり、居場所を見つけられず深く悩んだ時期がありました。どちらの枠組みにも完全に当てはまらない自分に対し葛藤や苛立ちを覚えていましたが、今回の話を聞き、これも一種の「言語剥奪」による悩みだったのではと気づくことができました。
ギャローデット大学で教えておられる高山享太先生とお話する中で、「ろう」や「難聴」のどちらかを選ぶ必要はなく、自分の好きな自分で生きていけばいいと励ましていただき、自分を肯定してもらえたような気がして、とても嬉しく思いました。
レジリエンスセンターでは、0歳から言語に触れる機会を意識的につくり、日常生活に取り入れる活動を行っており、こうした取り組みが日本の聴覚障害教育にも広がれば、「誰もが生きづらさを感じない社会」の実現に近づくのではないかと感じました。
【おわりに】
教育や支援のあり方について多くを学んだ今回の研修。実際に足を運んだからこそ得られた“気づき”の一つひとつが、これからの学びへの原動力になりそうです。
さて、次回はいよいよ最終回!ワシントンD.C.での観光や、研修を通じた国際交流の様子をご紹介します。どうぞ最後までお楽しみに!
Q&Aコーナー
Q1:コミュニケーション、大変じゃなかった?
ASLに慣れていなかったこともあり、研修初日はかなり苦戦しましたが、2日目以降は、なんとなく相手の言っていることが具体的でなくてもイメージとして捉えられるようになりました。とはいえ、自分がASLを使うとなると、まだまだ難しいです…。
でも、拙いASLでも相手に伝わった喜びがあり、「難しそう」「コミュニケーション苦手だし…」と避けてきた自分からは想像できないほど、「話すことって楽しい」と実感しました。また、ASLができなくてもCL(ものの形や動き、大きさ、位置などを、手の動きや位置に置き換えて表現するもの)で伝わった場面もあり、「伝わらないから諦める」のではなく、「伝える手段は他にもある」と、様々な手段を組み合わせて伝える工夫の大切さを学びました!
Q2:アメリカの食事、口に合った?
正直、場所によります!(笑)ギャローデット大学近くのフードコートのような場所(Union Market)では、サーモンのサンドイッチやカリフォルニアロールが本当においしかったです!
ただ、大学の学食はかなりボリューミーで油も多め…。米や麺、豆腐、卵などは日本の味や食感とかなり違っていて驚きました。どんなふうに違うのかは…みなさん、ぜひアメリカで実際に体験してみてください☆