大学入学共通テストで活用される英語民間試験における聴覚障害者特別措置は?
2020年度から「大学入試センター試験」に代わり開始される「大学入学共通テスト」。数学や国語では記述式問題が導入されるなど、様々な見直しが進められています。その中でも、英語の4技能(リスニング・リーディング・スピーキング・ライティング)を図る民間試験導入は、聴覚に障害のある方にとっては 障害の程度や種類によって不利益が生じやすいため、1つの懸念事項となっています。
そのため、今回はGTEC*を実施していますベネッセコーポレーションと実用英語技能検定(英検)*を実施しています公益財団法人日本英語検定協会から講師を招き、大学入試改革に伴う英語民間試験導入時の障害者特別措置について説明をいただきました。
GTECに関しましては、「医師による診断書」とベネッセコーポレーションが準備する「申請書」を記入の上、提出することでリスニング/スピーキング試験の免除という選択肢がある一方、英検ではリスニングはテロップの表示、スピーキングは筆談といった選択肢が設けてあり、免除という選択肢はないという説明がされました。つまり、受験する英語民間試験の種類によって配慮事項が異なり、総合CEFR*段階別表示もまた多様な背景のもとで算出されるということが分かりました。
「配慮事項」「総合CEFR段階別表示」が統一されていないという事実は、GTECや英検だけではなく、他のIELTS* や TEAP*といった試験も同様という背景もあります。そのため、筑波技術大学では「民間の英語資格・検定試験(英語認定試験)の活用」を、令和3(2021)年度入学者選抜では見送ることとなりました。
(参考:大学ホームページ)
本学の学部に入学を希望する皆様へ(学長メッセージ)-筑波技術大学における英語民間試験の扱いについて-
https://www.tsukuba-tech.ac.jp/announcement/ntut_2019091001.html
*1 GTEC
株式会社ベネッセコーポレーションが実施している、小学生から社会人まで英語力が測定できるスコア型英語4技能検定です。高校生向けとしては、Basic、Advanced、CBTの3タイプの問題タイプがあります。
*2 実用英語技能検定(英検)
公益財団法人日本英語検定協会が実施している実用英語能力の判定を目的とした文部科学省後援の資格試験です。
*3 CEFR
CEFRとは、「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)」のことです。外国語の運用能力を、言語の枠や国境を越えて同一の基準で測ることができる国際的な指標です。CEFRには、A1~C2の6つの等級があります。
(参考:旺文社ウェブサイト)https://eigonotomo.com/hikaku/cefr
*4 IELTS
International English Language Testing Systemの略称です。IELTSは、ブリティッシュ・カウンシル、IDP:IELTS オーストラリア、ケンブリッジ大学英語検定機構が共同運営で保有する試験で、公益財団法人日本英語検定協会は、日本国内における実施運営及び広報活動をしています。
*5 TEAP
TEAP(ティープ)とは、Test of English for Academic Purposesの略称で、上智大学と公益財団法人 日本英語検定協会が共同で開発した、大学で学習・研究する際に必要とされるアカデミックな場面での英語運用力(英語で資料や文献を読む、英語で講義を受ける、英語で意見を述べる、英語で文章を書くなど)を測定するテストです。
eラーニングを使って中学・高校といった早い時期からの英語力強化を
聴覚障害英語教育研究会では、筑波技術大学の藤井拓哉先生によるeラーニング教材のデモが行われました。藤井先生は、英語教育の専門家です。「たくや式中学英語ノート(朝日学生新聞社)」や「ガチトレ 英語スピーキング徹底トレーニング(ベレ出版)」といった本も多数執筆されています。そして、今回デモを行ったeラーニング教材も、藤井先生が開発したものだとか。
藤井先生によると、この教材の大きな特徴は「個々のレベルにあったところから進められる」というもの。「be動詞の文」や「一般動詞の文」といった、基礎の基礎から学ぶことができるため、自分の弱点をしっかり見極めることができるそうです。練習問題は「選択問題」「並び替え」「英作文」といった形式で作成されており、スマートフォンやパソコンからアクセスして問題を解いていくため、ゲーム感覚で進められるといいます。
「聴覚障害をお持ちの生徒さんは、健聴者の生徒さんと比べて授業外で英語に触れる機会が少ない印象があります。例えば、健聴者の場合、英語で外国の方と話す、洋楽を聴く、アメリカやイギリスの映画やテレビドラマを見るなど、授業外で英語に触れる機会が至るところにあります。そのため、英語に対する興味が沸いたり、英語をもっと頑張って覚えようと思えたり『英語を学ぶ楽しさ』に気づく機会が多い気がします。一方で、聴覚障害を持つ生徒さんですと、こういう英語に触れる機会が限られている部分もあるため、授業外で楽しく英語学習を進められる教材があったらいいなと思い、今回のeラーニング教材の開発を始めました」と藤井先生は話します。
学生の反応は?
このeラーニング教材は現在筑波技術大学の授業でも用いられているそうで、学生の手ごたえはまずまずだとか。「ゲーム感覚で楽しみながら課題をこなしてくれる学生さんも多いですね。正直、問題作成が追いついていない状態です。『藤井先生、次の単元はまだできないのですか?』と学生からせかされるほどです(笑)。夏休みや冬休みといった、授業がない期間にも英語の練習ができるこのシステムは、学生の英語力維持にもつながると思います。この教材が日本全国で使われることを期待したいです」
将来的には、字幕/手話つきの講義の動画を載せるだけでなく、英検やTOEICといった試験対策や、留学を視野に入れたアメリカ手話やTOEFL対策などの教材も作りたいと話している藤井先生。今後の活躍にも期待です!