筑波技術大学保健科学部情報システム学科長として学科をリードした後、2019年4月より現職に就任した坂尻正次副学長は、研究担当副学長としてご自身も様々な研究に取り組まれてきました。前編では、学生の就職支援や学会活動、福祉工学の分野に取り組み始めたきっかけなどを伺いました。坂尻副学長へのインタビューは2回に分けてお送りします!
Q.はじめに、新型コロナウイルス感染症も3年目に入りましたが、現在の状況をどう見ていますか?
多くの方が思っていることだと思いますが、とうとう3年目に突入してしまったという残念な気持ちでいっぱいです。地道に感染対策を継続することはもちろん必要ですが、オミクロン株の出現など、常に状況も変化しているので、それに対応しながら、学生の皆さんの勉学・大学生活の質を向上させていけるように努めていきたいと思います。
Q.本学の学生支援で印象に残っていることはありますか?
印象に残っていることと言うと、学生の皆さんの就職支援のことが一番にあがってきます。私は視覚障害が入学要件の保健科学部情報システム学科で就職支援に携わっていますが、5・6年ほど前までは全盲の学生さんの就職は非常に大変でした。100社以上を受けても内定がでないことは当たり前で、100社落ちてからが本番と前向きに就職活動に励んでいた全盲の学生さんが何人もいました。何度落ちてもあきらめないというこのような学生さんの姿勢に感心することもありました。
私も、学科の先生方に交じって全盲の学生さんを受け入れてくれる企業さんを開拓する取り組みをおこなってきましたが、そのような取り組みの結果、全盲の学生さんが内定を取った時には自分のことのように嬉しかったです。
ここ最近では、全盲の学生さんの就職状況は、本学の卒業生の活躍が評判を呼んでいることも要因だと思いますが、かなり良い状況です。今年の4年生も、全盲の学生が早々に内々定を獲得していました。彼が成績優秀でコミュニケーション能力にも長けていたということはもちろんですが、本学の卒業生の活躍が企業様の評判を呼び、それが在学生の就職活動に有利に働くという良い循環になっているのではないかと思います。大学としても、このような良い循環を絶やさずに、さらに良い循環に発展するように取り組んでいきたいと思います。
Q.研究での保健科学部学生の活躍について教えて下さい。
本学の卒業生で、この4月から出身学科である本学の保健科学部情報システム学科の助教として赴任する予定の松尾政輝先生は在学時から多くの研究業績をあげていました。例えば、学部3年生の時に受賞した下記の福祉機器コンテスト2014での受賞等があります。
彼は、本学の大学院修士課程に進み、その後、筑波大の博士課程を修了し、その後に産業技術総合研究所の特別研究員(※博士課程修了者が就く研究員のポスト)をしていました。この4月からは情報システム学科の教員になる訳ですが、卒業生としての目線を持ちつつ、学生の年齢に近いお兄さん的な立ち位置で学生の教育・指導にあたってくれることと思います。
その他には、下記のようにライフサポート学会奨励賞を受賞した実績や研究発表の成果があります。研究に興味がある人には研究室の研究打合せに門戸を開いていますし、授業でも3年次に卒業研究の準備をするような必修科目もあります。このように研究に興味のある人には扉が開かれています!
福祉機器コンテスト2014 最優秀賞(学生部門)
筑波技術大学 保健科学部 情報システム科3年 松尾 政輝 氏
https://www.resja.or.jp/contest/data/2014/2014-gakusei-saiyuusyuu.html
筑波技術大学ニュース 第33号 2015年2月 13ページ(写真は同記事での写真) ※PDFダウンロード可
本学学生が福祉機器コンテスト2014学生部門において最優秀賞受賞
https://www.tsukuba-tech.ac.jp/assets/files/soumu/news/insatsu/ntut_news033.pdf
【参考】
山形大学FDネットワークつばさ 週刊授業エッセイ 筑波技術大学 坂尻正次
http://www.yamagata-u.ac.jp/gakumu/tsubasa/essei/28-24.html
ライフサポート学会奨励賞(保健科学部情報システム学科卒業生) 松尾 政輝 2016年
全盲者のアクセシビリティに配慮した音だけで作図する地図エディタとアクションRPGの開発
※下記URLでPDFダウンロード可
https://doi.org/10.5136/lifesupport.28.25
曽我 晋平 2017年
GoalBaural : ゴールボールにおける音感覚の訓練アプリケーションの開発
https://doi.org/10.5136/lifesupport.29.21
安藤 玄太郎 2018年
弱視者のためのバーチャルミュージアムの構築
https://doi.org/10.5136/lifesupport.30.3
泉 隼樹 2019年
弱視者におけるHMD 用全天球VR コンテンツの没入感に関する研究
https://doi.org/10.5136/lifesupport.31.3
大塚 勇哉 2020年
スクリーンリーダーでのWeb サイト閲覧体験の向上に関する研究
https://doi.org/10.5136/lifesupport.32.7
富川 尚樹 2020年
コミュニケーションを目指した盲ろう者支援の改善策とその提案
https://doi.org/10.5136/lifesupport.32.22
片山 博貴 2021年
触覚/力覚誘導提示方式を用いた視覚障害者用GUIインタフェースの研究
https://doi.org/10.5136/lifesupport.33.26
中村 友海 2021年
盲学校におけるスマートスピーカー活用の可能性
https://doi.org/10.5136/lifesupport.33.27
その他の学生の研究業績
弱視者のゲームアクセシビリティにおける問題点. 市場大亮,三浦貴大,坂尻正次,大西淳児,小野束: 情報処理学会アクセシビリティ研究会, vol.2016-AAC-2, no.13, pp.1-4, 2016-11-25.
http://id.nii.ac.jp/1001/00176042/
※市場君が4年次に卒業研究で取り組んでいた内容を発表
※リンク先は情報処理学会が運営する電子図書館のページです。
Q.研究分野として福祉工学系のテーマを始めたきっかけは何でしたか?
福祉工学の分野に足を踏み入れたのは大学院の修士課程からです。北海道大学大学院の工学研究科に生体工学専攻があったのですが、ここで配属された研究室が福祉工学の研究室でした。学部では物性物理学を学んだので人工血管や人工心臓用材料などの生体材料の研究をしたいと思い生体工学専攻を志望したのですが、何となくおもしろそうだと第3希望に書いた福祉工学の研究室に配属されたというのが、福祉工学との出会いです。実際に福祉工学に関わってみると、非常に興味深い分野であることが分かり、福祉工学の研究が楽しくなり、今現在まで続いているというのが実情です。
振り返ってみると、生涯取り組むことになった福祉工学の分野が、当初は自分が希望していないところにあったということですが...結果としては、自分の希望していなかった場所に福が転がっていたということになります...人生のおもしろいところでもあると思います。
恩師は伊福部達先生で東京大学・北海道大学名誉教授です。緊急地震速報のチャイム音を考案した先生でもあります。伊福部先生の研究室に配属されてから30年ぐらいが経ちますが、現在も伊福部先生の科研費(文部科学省の競争的研究資金のこと)の研究分担者をさせて頂くなど、いっしょに研究をしています。70歳を過ぎてもなお精力的に研究に打ち込む姿を拝見して、私ももっと頑張らねばと、その背中を追いかけています。
【参考】
※東京大学先端科学技術研究センター研究者一覧 伊福部 達先生のページ
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/people/staff-ifukube_tohru.html