「Going my way 妥協という言葉はない - 出逢う人すべてに恵まれて今の自分がいる -」
卒業生  

「Going my way 妥協という言葉はない - 出逢う人すべてに恵まれて今の自分がいる -」

今回お話を伺ったのは、2014年3月に産業技術学部を卒業し、現在は関西テレビ放送株式会社で働く永川智晴(ながかわちはる)さんです。2020年には東京五輪聖火リレーランナーに選ばれ、点火セレモニーにも参加されています。他にも、初級障がい者スポーツ指導員資格を取得したり、著書「聞こえない人が婚活してみました!?」を出版したりするなど、精力的に活動されています。そんなエネルギー溢れる永川さんに、在学時代の思い出や現在のお仕事、プライベートのこと、そして今後の目標などについて語っていただきました。

Q1.技大に入ったきっかけは何ですか?

19歳の誕生日、ある新聞に卒業生の松森果林さんの記事が載っていて、筑波技術大学のことが書いてあったので興味を持ったのがきっかけです。幼少期からずっと健常の学校に通っていて、家庭や学校でも周りは聞こえる人ばかりだったので、自分以外の聴覚障害者ってどんな感じだろうと思っていたのと、親からも聞こえない世界も経験した方がいいよと助言されたこともあり、入学を決めました。

 

Q2.在学時代の思い出について聞かせてください。

たくさん思い出があります。“いかに遊ぶか”ということばっかり考えていた学生で、いい学生ではなかったですが…。テスト前なのに勉強の内容が分からなくて、夜に泣きながら先生の研究室を訪ねては質問したりするなどたくさん迷惑を掛けたり、普段からうるさくて怒られてばかりでした。

大学では、聴覚障害がある自分、何もできない自分をなかなか認めることができませんでした。思ったらすぐに行動する、にぎやかなことが大好き、その上中途半端だったこともあり、周りから誤解を受けやすい性格でした。自身の障害を理由にできないことばかり探す自分、そして周りは「どうぜ無理だって(障害があるから)」と否定するネガティブな人たちばかり、当時はその状況をなかなか受け入れることができず孤立していたこともあり、大学の先生とばかり仲良くしていました。一方でそんな私を理解してくれ、「面白がってくれる」かけがえのない友人に出会うことができました。卒業してから10年近く経ちますが、今でも連絡を取り合ったり一緒に旅行に行ったりしています。

「Going my way 妥協という言葉はない - 出逢う人すべてに恵まれて今の自分がいる -」

大学1年生で北欧研修、2年でアメリカ研修に参加した経験を通して、「世界は思ったより広い、大学での聞こえない世界は狭い」と体感したことをきっかけに、1年に1回は海外に行くようになりました。

大学1年と2年の前期は課題やテストで忙しく、大学内のPEPNet-Japanというところで学生アルバイトだけをしていました。落ち着いたころに久しぶりに大阪に帰省した時、友人や家族から「発音悪くなったね」と言われ、ショックを受けました。その時に、聞こえる世界とも関わりを持ちたいと思い、大学外にあるアパレル店GAPでもアルバイトを始めました。

PEPNet-Japanで一緒に働いていた弱視の聴覚障害の同期が、シンポジウムのお手伝いの帰りに雨が降っていて、先輩たちが「雨降っているし、真っ暗だから車で送るよ」と言ってくれたのにもかかわらず、かたくなに「大丈夫!障害者扱いしないで」と怒り出したその様子を見て、当時はGAPでのアルバイトで聞こえる世界と関わりを持ち始めていた頃だったこともあり、聴覚障害がある自分と向き合うようになりました。

大学4年のときに、電子システムコースの先生が定年を迎え、退職されると聞いて、同じコースの同期3人と一緒に、1期生から5期生を集めて退職された先生方もお呼びして送別会を開こう!ということになり、企画を立てることにしました。当初はノリで始めたのですが、予想以上に大変でした。しかし、幸いにも先生方や先輩方の予定を調整することができ、また周りも協力してくれ、送別会を実現させることができました。先生方がすごく喜んでくれている姿を見て、胸がいっぱいになったことは今でも鮮明に覚えています。同じコースの同期と4人で一致団結できたこともいい思い出になりました。また、自分の長所である「やりたいと思ったらすぐに決断し実行する行動力」「人を楽しませたり喜ばせたりするのが好き」ということに改めて気づくこともできました。そして…ダメな学生だった私に対する先生方の印象も変わってきたのか、大学4年生にして初めて褒めていただくこともできました。

卒業して10年近く経ちますが、先生方とはずっと連絡を取り合っています。実は、会社を2回転職していますが、在学時と変わらず相談に乗ってくださったり、心配してくださったりしています。他の大学と違って卒業して社会人になってからもずっと先生と関わりを持てるのは、筑波技術大学だけだと思います。

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Q3.現在の仕事について教えてください。

関西テレビ放送株式会社の報道部に所属しており、ニュースで報じられている内容を記事にして、ウェブサイト等で発信したりしています。話し言葉と書き言葉をごっちゃにしてしまわないよう、また、ウェブサイトの場合は映像がないため、ニュース番組で報じられている映像の内容を、いかに文字でわかりやすく伝えるか、日々頭を悩ませています。書く力や語彙力が求められる仕事なので、全然できていませんが、理解ある上司や同僚のおかげで、楽しく過ごしています。聴力、いわゆる音声をメインにしたやりとりが求められる部署でもありますが、まったく聞こえない私が働けているのは本当に奇跡だと思いますし、入社時に当時の人事部の方たちに出会えたことが大きいです。入社時に、わたしが障がい者スポーツに関わりたいと話したことと、当時の人事部長が元報道部だったこと、そして実は昔、関西テレビのドキュメンタリー『ちはるとちえ』に出演していて、当時のカメラマンや音声さんと再会を果たすこともでき、報道部の人たちからも「あの時の子か」と覚えていてくださったこともあり、報道部で研修させていただくことになりました。「縁」ってすごいなと思いました。

また、研修のときに出会った今の上司がすごい人なのです。私に対して音声を聞いて文字化する、いわゆる音声情報の書き起こしや動画作成を「できない」と言う代わりに、「苦手なことなんだな」と言い換えてくださったことに感動し、この人の下で働きたい、頑張りたいと思ったことが現在の職場で働くことになったきっかけでもあります。人事部や今の上司、部の同僚たちのおかげで、ハンデを感じることなく楽しく働かせていただいています。それに、周りの人たちがすご過ぎて、自分ができないような人間に思えてしまい「報道部なんて向いてない」と泣いたり、腹がたったときは喧嘩腰になってものを言ってしまったり感情のまま行動してしまうこともありますが、それでも、周りはそんな自分を受け入れてくれるので本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

「Going my way 妥協という言葉はない - 出逢う人すべてに恵まれて今の自分がいる -」

障がい者スポーツに関わりたい、障害のことを個性と思ってもらえる社会になれるよう貢献したいと思っていたことを上司が覚えていてくださり、2025年のデフリンピック東京開催が決まった際には関西在住の聞こえない選手の取材に行かせてくれました。着実に夢に1歩ずつ歩めていけているようで、幸せを感じています。その分、周りに対する感謝の気持ちをさらに持たないといけないと思っています。少しでも恩を返せるように頑張ります!記事が出ましたらぜひ読んでください。※1


Q4.プライベートではどのように過ごしていますか?

「Going my way 妥協という言葉はない - 出逢う人すべてに恵まれて今の自分がいる -」

韓国ドラマにハマっています。毎晩1話だけを見ては、気持ち切り替えて明日も仕事を頑張ろう!とモチベーションをあげています。筋トレやムエタイに行って体を動かしたり、休日に友達とご飯を食べに行ったりして、ストレス発散しています。

 


「Going my way 妥協という言葉はない - 出逢う人すべてに恵まれて今の自分がいる -」

コロナ禍になる前は海外やいろんなところに大学時代の友人と一緒に旅行をしていました。みんな、今はそれぞれ違う場所に住んでいますが、旅行先で待ち合わせする約束をつくったりするのも仕事を頑張れる秘訣の1つです。

 


Q5.今後の目標や夢はありますか?

今の会社で、障害者や社会的弱者の特集を組んだり、ドキュメンタリーをつくったりしたいです。障害があっても頑張っているスポーツ選手を取材したいです。

聞こえない人のことをもっと知って欲しいし、聞こえる世界の人でもない、聞こえない世界の人でもない、その狭間で孤独感を抱えている聴覚障害者がいること、そしてお金を稼いで1人暮らしをしていこうと思ったら、どうしても聞こえる世界にいる人たちの中で頑張らないといけないというような苦しさを知って欲しいです。このようなことをもっといろんな人に知ってもらいたい、恋愛や結婚と絡めたらみなさん読んでくれるかなと思い、今年本を出版しました。『聞こえないけど婚活してみました…!?』好評発売中です!次は翻訳して世界中で販売できるようにして、ゆくゆくはドラマ化も実現させてみたいです。

 

Q6.学生へのメッセージをお願いします。

相田みつをさんの名言の一つに「そのときの出逢いが人生を根底から変えることがある。よき出逢いを」があります。私の好きな言葉であり、常日頃から心に留めています。

若い学生の間に自分の思うままに、心に従ってたくさんのことに挑戦し、失敗しても良いからかけがえのない経験を得てください。そして、自分の強みや弱みを分析し、先生や周りの大人たちからアドバイスをもらって、大学で出会った友人を大切にしてください。たくさんの人・価値観・モノに出逢って、あなた自身と人生を彩って培って素敵な人になってください。

 

※1 本インタビュー実施後、永川さんが取材された記事が掲載されました。

『【シリーズ 東京デフリンピックに向けて1】大阪の熱きデフスイマー ブラジル大会は「不完全燃焼」で東京大会に賭ける手話を覚えたことでコミュニケーションの楽しさを知った優美な泳ぎが印象的な金持義和選手』2022年12月3日、https://www.ktv.jp/news/feature/221203-1/

 

※2 本学が取組む障害者高等教育拠点事業(障害者高等教育研究支援センター)の一環である『ろう者学教育コンテンツ開発プロジェクト』のうち、「ろう者学トーク」においても永川智晴さんによる講演の動画を紹介させていただいております。関心のある方はぜひそちらもご覧ください。

永川智晴氏「技大に入って得られたかけがえのない価値観・好きになれる自分」

https://www.deafstudies.jp/info/news0188.html

Profile

佐々木 大海(ささき ひろうみ)さん

永川智晴(ながかわちはる)さん (産業技術学部産業情報学科2014年3月卒業、5期生)

大阪府大阪市出身、5歳の時に高熱で聴力を失う。
7歳の時、関西テレビ「ちはるとちえ-響き合う双子姉妹の成長記録-」に出演。ずっと健常の学校に通う。筑波技術大学に入学したのを機に聞こえない世界へ。現在、関西テレビ放送株式会社に勤務。
障がい者スポーツに興味を持ち、初級障がい者スポーツ指導員資格取得。2022年に著書「聞こえない人が婚活してみました!?」を出版。
趣味:韓国ドラマ、筋トレ、ムエタイ、旅行
好きな言葉:「そのときの出逢いが人生を根底から変えることがある。よき出逢いを」

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