※上写真の右上から時計回りに卒業生の増田さん・太田さん・田中さん・石原学長。
自己紹介
学長:本日はよろしくお願いします。ではまず、簡単に自己紹介を。
増田:2007年に電子工学部(短大)を卒業した増田です。昨年秋に転職して、人事総務の仕事をしています。
田中:2012年に産業情報学科を卒業した田中です。卒業後は大学院の技術科学研究科に進み2014年に卒業しました。現在は個人事業主として、WebやAndroidアプリを開発しているほか、技術補佐員として技大に勤務しています。
太田:2018年に総合デザイン学科を卒業した太田です。全国紙の新聞社で新聞や電子版に掲載されるグラフやイラストの作成、デザインを担当しています。
今の仕事を選んだきっかけ、動機
学長:今の仕事を選んだ理由やきっかけは?
増田:卒業後は半導体設計の仕事をしていましたが、結婚を機に退社し、昨年9月に今の会社に入って人事総務を担当しています。中途採用の場合、特に半導体関係は求人が少ないため、仕事を探すのが難しかったんです。家庭との両立も考えた結果、今の仕事になりました。たまたま私と同じ誕生日、出身地、血液型の方が面接をしてくださって。色々な接点があったことで話が弾んで、何か通じ合うものがありました。
学長:人事は幅広い知識や情報、総合的な力が求められると思うけど、前職と比べてどう?
増田:難しさは全く違います。前職はとにかく知識と技術。1人で考える時間が長くて、1年2年使って仕事をしていました。今の仕事は色々なタスクがあって、1つのことにかける時間が短く、1日や数十分で多くのタスクをこなさなければならず、時間管理が難しいです。
田中:私は、大学卒業後は一般企業で5年間働いていましたが、「自分は何のために仕事をするのか?」という疑問が生まれたんです。もっと聞こえない人のサポートをしたい、仕事をもっと自由に選びたい、と思ったことが転職のきっかけです。今は個人事業主という立場で仕事を選んで、色々な仕事をできるようになりました。技術補佐員の仕事は、技大の先生にご紹介いただきました。個人事業主の仕事だけでは経済的に不安があったので、並行して仕事をしています。
学長:障害に関係無く、1つの会社で一生働くのではなく、様々な選択肢の中に個人事業も含まれている。そういう考え方を持った若い人たちも増えているようだね。
太田:私は3年生の時に職場見学で今の会社に行きました。その時の職場の雰囲気や仕事内容が、自分に合っていると感じたのが大きかったです。職場には聞こえない先輩が4人いるのですが、その先輩たちが部署内に聴覚障害者に対するイメージや接し方を浸透させてくれたおかげで、コミュニケーションの面で困ったことが無いくらいです。そういう意味でも今の仕事を選んで良かったなと思います。
コロナ禍での働き方の変化
学長:新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務をしている方もいると聞きました。コロナ禍での働き方をどう感じていますか?
増田:出勤は月に1・2回で、それ以外は在宅勤務です。対面の会議がないと意思疎通が難しいと思います。でも、メールの内容を少し変えてみたり、Webサービスを使ったりなど、情報交換のやり方を変えることで調整しています。
学長:直接コミュニケーションを取れないのはやっぱり困る?
増田:はい。感情が相手に伝わりにくいと感じます。怒っているのか悲しんでいるのか、文章だけだとわからない。顔を合わせれば表情を見て話せますから。
田中:私もコミュニケーションはメールやチャット、テレビ会議が多いです。インターネットを使った仕事なので、仕事上困ることはあまり無いのですが、人と会わないことで「自分だけが仕事をしている」という孤独感はあります。それとやはり、相手の顔が見えないことで気持ちや感情がつかみにくいですね。そうした気持ちの問題が大きいと思います。
太田:出社は月に6日か7日くらい。その他は在宅です。人と顔を会わせる機会は減りましたが、もともとコミュニケーションが活発な職場なのであまり気になりません。逆に良かったことの方が多いと思います。例えば、上司に対して「このデザインはこうした方が良くないですか?」といった、自分の意見を堂々と言えるようになりました。文字ベースのチャットを使っているので、相手の表情を気にしなくて良いという点が大きいのかなと。
学長:確かにメールやチャットの方が、かえって聞こえる人とのハンディを少なくできるということも聞きますね。
今、新たに学びたいこと、学び直したいこと
学長:社会人になって、新たに学びたい、学び直したいと思うことはありますか?
増田:ITを学びたいです。また、外部のセミナーは字幕や情報保障が無く、金額面の問題もあるので、学内でそういうプログラムがあると良いと思います。
田中:AIなど情報分野でも最先端の技術を学びたいです。情報系の講演は各地で開かれていますが、毎回参加するのも大変なので、講師に直接聞けるなど、細かいスキルや技術を安心して学べる講座があると良いと思います。
太田:自分のスキルをもっと磨いて上達したいという意味で、技大にデザイン系の大学院があると良いと思います。
学長:産業技術学専攻の中にデザインコースがあるよ。もし、もう一度専門的な部分を深めたいなら、技大は有りだと思うよ。
太田:そうなんですね! 考えてみたいと思います。
技大に望む学部・学科
学長:今後、技大にどんな学部・学科ができると良いと思いますか?
増田:商学部などがあっても面白いのかなと。技術とは違う専門職の勉強もできると良いと思います。
田中:チームや会社の中でのコミュニケーションを勉強できると良いと思います。「聴覚障害についてのコミュニケーション」を一般的にしていく感じで。これからのリーダーになるような、聴覚障害者を引っ張って行ける存在になれる学部があると良いですね。
学長:みんなをまとめていくコミュニケーション力ということだね。社長として働く田中くんは特にそう思うよね。
太田:技大に足りないのは文系かなと。高校時代、友だちが「技大に文系があれば良いのに」と話していました。聴覚障害者にとって文系は難しい問題ですが、技大の充実した情報保障を活かして文系もサポートできれば、もっと良くなると思います。
増田:人事や総務はデータをまとめる力が必要ですし、会計はお金の計算をしなければなりません。文系理系合わせて講義をするのが面白いと思います。
学長:技術にも、情報技術やデザイン、機械や建築などがありますが、加えて幅広い知識も大切。文系の知識も必要だね。私が言いたかったことをまとめてくれました(笑)。
技大の学生と技大をめざす人に向けて
学長:技大への入学を目指す方々、そして今学んでいる学生にメッセージを。
増田:先生と学生との距離が近く、話しやすいのが技大の良いところです。情報保障以外に先生に質問しやすい環境もある。そこが他の大学には無い点なので、大切にしてほしいですね。PEN-International(ペンインターナショナル)という、世界中の聴覚障害者と交流できる機会もぜひ体験してもらいたいです。悩んだ時に話ができる仲間がいるのは大切なので人間関係も大事にしてください。
田中:私は高校まで普通校に通っていて、大学で初めて「聞こえない世界」に入りました。高校まではコミュニケーションが取れないことで、わからないこともたくさんあったし、友だちができにくい部分もありました。でも大学に入ってから、色々な人と友だちになれたし、コミュニケーションを取りながら深い知識や技術を勉強ができたことが大きかったと思います。しっかりとしたコミュニケーションの中で学べるのはとても大切なこと。コロナで大変な状況ですが、逆にこれからの新しいコミュニケーション、新しい時代をつくるきっかけにしてほしいです。
太田:失敗は成功のもと。大学の4年間は長いので、後悔が無いよう、怖がらずにやりたいことに挑戦すると良いと思います。技大は先生とのコミュニケーションも取りやすいし、個人的な悩みを聞いてくれる先生もいます。頼りになる大人がいるのはとても大きい。技大ではほとんどの学生が寮に入りますが、初めて親元を離れる人も多いです。そんな時に話ができる大人がいるとすごく助かります。友だちとの関係も大事だけど、大人からのアドバイスも必要で、私もお世話になった先生とは今でも連絡を取り合っています。
学長:親離れ子離れと言うけれど、それができるのが技大の寄宿舎。日本には多くの大学がありますが、その中で技大が一番というものが一つあります。それは地元出身者の割合が少ないこと。国内外のあちこちから学生が集まっているという特徴があります。色々な人が集まり友だちをつくって生活することが、親御さんと離れる機会にもなるんだね。改めて皆さんから教えていただいた気がします。今日はどうもありがとう。