あらがわず流されず、人との関わりが形作る未来の自分
卒業生  

あらがわず流されず、人との関わりが形作る未来の自分

2023年6月に300店舗のセブンーイレブンでレジの「指差しシート」設置がスタートしました。この企画に携わった本学卒業生の佐々木さんにインタビューを行いました。

——今回はお引き受けいただきありがとうございます。まず、学生のときのお話からお聞かせください。今振り返るとどのような学生でしたか?

とにかく、楽して生きたいというような性格上、いろいろな悪知恵を働かせ先生方にご迷惑をおかけした学生だったと思います。今思えば卒研の厳しいご指導は私が社会に出たときに困ることがないようにするための愛の鞭だったのかもしれません。

使用者に合わせてカスタマイズできるゲームコントローラーの研究


 

——卒業研究ではゲームコントローラーの研究をされていますね。大変だったことやそれを乗り越えたエピソードなどありましたら教えてください。

当初はプラスチックや発泡スチロールを使い、モデリングするものだと考えていましたが、指導教員からの提案もあり、3Dプリンターを活用しながら進めることにしました。
在学中、CADソフトの使い方を学んでいましたが、出力方法が未知でした。マニュアルを読みましたが内容が英語で、インターネットで検索や翻訳しながら取り組んだのを覚えています。私にとって過酷な作業でした。
それでも諦めず夏休み返上で続け、テストで初めてチェーン(鎖)を出力できたときは嬉しかったですね。そのお祝いに指導教員から奢ってもらったラーメンの味は未だに覚えています。
ただ、3Dプリンターは出力に1回5時間かかり、大物になると1日2回までしか出せなかったので失敗したら悲惨です。出力中だんだんズレていく様子を見てしまうと、やる気を無くしてしまう瞬間もありました。その際には指導教員へなんとかなりませんかと相談し、中の板を変えて整備してもらいながら改善していきました。改めて、私の課題に一生懸命向き合ってくれた先生方には感謝をしております。


——佐々木さんと教員とで試行錯誤をしながら共に卒業研究を進めた様子が伝わってきます。

ゲームコントローラーよりも、3Dプリンターの研究をしていた時期もありましたね。
やはり夏休み返上というのが大変でしたので自分のモチベを保つためにも、指導教員へとにかく提案しました。「既存のゲームのコントローラーを評価する」という提案で研究室にゲーム機を持ち込むことを了承していただけました。なので休憩中にゲームをすることもしばしば・・・(笑)遠慮なく提案をする、諦めない心、そして先生方の厳しくも暖かいご指導のおかげで、無事卒研を完遂できたのではと思っています。


——発表のときにとてもエンターテイメント性のある発表をされていましたが、普段から人を楽しませることについて考えていらっしゃるのですか?

未だに「あの発表で本当に大丈夫だったのか?」と不安になるときはあります(笑)
ただ、興味がない聴講者も楽しく卒研を聴いてほしかったので、飽きさせないための工夫が必要と判断しました。そこで友人の協力も借り、対話形式のテレビショッピング形式で発表をすることにしました。結果としては概ね成功できたのではと思いますが、指導教員がずっと苦い顔をしていたのが気がかりでしたね(笑)

日常、エンタメについて考えることはあまりないのですが、あの時の卒研には中学生の頃に患った難病である「中二病」の応用がいろいろなところに隠されています。
例えば、作品をアピールする際の、動きの大きさ、間の使いこなし方、誇張、は全て、中二病者がオリジナル技を放つ時の基本です。昔はよく場を盛り上げるため友人にオリジナル技を披露していまして、苦笑いかは別としてそれがうけた時は気持ちよかったですね。
もしかしたら、私がもつエンタメ性というのは人を楽しませたいという一心から無意識に「中二病」から培ってきたものではと思います。

お人柄の出ているエピソードをありがとうございます。


——卒業後の現在のお仕事の様子についてお聞かせいただけますか?また、程なくコロナ禍となりましたが、どのような影響がありましたか?

私のいる職場は社員教育に関わる部署で、健聴の人も一緒に担当しています。メイン業務としてはラーニング系の社会活動、小学校の職場体験を通じた教育に関するものに関わっています。

コロナ禍が始まり、在宅勤務という勤務形態が始まるようになりました。現在は少し落ち着いてきましたが、ワークライフバランスの観点から、在宅勤務も通常の勤務形式として認められるようになりました。在宅勤務の取得数は部署の方針によって変わりますが、現在(2023/9/15時点)週に4回まで制度として認められています。

コミュニケーションに関しては、マスクをしていることで、口形が読み取りにくくなりましたね。現在の当部署内の聴覚障害者は5名程いますので、コロナ禍を機に聴覚障害社員への対応ではマスクを極力外すというルールが決まりました。その他にも、会議では専用の文字起こしのアプリケーションを使っています。

このように小さな問題でも配慮いただける環境が整えられており、これは聴覚障害の先輩社員が積極的に会社へ提案していただいた結果です。

 


——現在セブンーイレブンの「指差しシート」設置が始まり、大学の近くの店舗にも導入されています。この企画の経緯や活動内容などお聞かせいただけますか。

最近一部のお店や公共施設では、コミュニケーションにハードルをもつお客様のために工夫をされているところがあります。
このように社会が変わりつつある中で、誰もがお買い物をしやすい環境づくりのため、セブンーイレブンに「指差しシート」を設置できないかと考えるようになりました。
その後、すぐにリサーチを重ね、提案書を提出しました。この時、大学で培った提案力、プレゼン技術を活かしながら進めました。私の思いが伝わり、「指差しシート」を約300店舗に配布することに決まったと報告を受けた際には、これまで関わってきた周囲の方々への感謝の気持ちでいっぱいになり、社会貢献につながる仕事ができたと自負しております。

https://www.sej.co.jp/company/news_release/news/2023/202306011500.html

発案に関わっていたのですね。貴重なエピソードをありがとうございます。


——最後に、これから社会に出る後輩や進路を選ぶ高校生へ、社会の荒波に飲まれずに自分を保つためのアドバイスはありますか?

まず、自分はなにもできないできないことを素直に認めるところから入ることですね。大学まで周囲の大人は優しい方が多く、その経験から社会を舐めてしまうことがあります。卒業後社会の厳しさに触れてそのことに気づくところがありますので、価値観をリセットする、リスキリングが必要です。
あとは、波に抗ってはいけないですね。昆布とクラゲの気持ちが大事だと思っています。
クラゲのように流されるまま生きていき、かといってずっと流されていったら魚に食べられたり、リスクが高いところについてしまったりしますので自分のここだという場所をみつけ、地に足をつけ、昆布のように安定した場所を見つけることも大事です(ジェスチャーしながら)。
私が社会で仕事を続けてこられたのは、そうした無理をしないコミュニケーションを心がけていたからです。
斟酌折衷の意識で、他部署で関わった方とお話ししたり、今いる環境にいる方と程よく仲良くすると、いつしか自分にとって過ごしやすい会社になります。
「指差しシート」の企画もそうして関わってきた方のお力添えもあり、最終的には実現されるなど、提案も通りやすくなります。

私は製品デザインを学んでいましたので、それを知った上司が新商品のデザインに関わってほしいと仰ってくれました。新商品ができた時にどのようにアピールするかが重要なポイントです。私の例では、商品を陳列するときに、形や素材によって、フックにかけるのか、置くのか、折りたたむのか、候補をいくつか考える必要があります。
その時に大学1年生時の課題、紙を使った立体的な構成の課題があり、そのときに駆使した空間把握力、忍耐力、アイデアの絞り方を参考にしながら仕事を進めています。
ですので、技術面で壁にぶつかったときは、学生時代に学んで楽しかったこと、苦労したことを一度思い出してみてください。今まで無意識に重ねていた経験が実はヒントになることもあるので、一度振り返ってみると良いかもしれません。

大学でデザインを学んだことが仕事に繋がっているのですね。

この度は学生の励みになる良いお話をありがとうございました。

Profile

佐々木 大海(ささき ひろうみ)さん (筑波技術大学産業技術学部総合デザイン学科 2019年3月卒業 10期生)

出身高校:筑波大学附属聴覚特別支援学校
好きなもの:漫画
好きな言葉:主人公であれ、嘲笑するものはいつだって観客側である

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