石原保志学長と卒業生との交流を目的に、現在、聴覚障害団体で活躍する卒業生3名との懇談会を開催しました。昔懐かしい話も交えながら和やかな雰囲気の中、学生時代に学んだことで今役立っていることから、今の筑波技術大学ができること・今後期待することなど、筑波技術大学の今後の可能性、取り組みについての活発な意見交換の場となりました。
※上写真の左から藤平さん・石原学長・堀米さん・瀬川さん・大杉先生。
自己紹介
学長:3人とも会社に就職後、ろうあ連盟や情報提供施設に変わったわけだよね。
瀬川:私は一般企業に就職して4年働いていた時、ろうあ連盟が募集しているよとお声がけをいただき入社試験を受けました。
学長:ろうあ者大会などで会うでしょ。顔見ると俺ほっとするんだよね。
瀬川:私も石原学長のお顔を見るとほっとします。
学長:藤平さんは?
藤平:卒業した後は三菱電機で5年間働いていました。その後、全日本ろうあ連盟の本部事務所に入職し5年働き、千葉県の聴覚障害者協会で10年働きまして現在の石川県聴覚障害者協会で現在12年目です。早いものですね。
学長:藤平さんは技大にいる時から、中心的な役割を担うっていうのは自然に思いました。
瀬川:藤平さんは学生の時から本当にリーダーシップを発揮されていらっしゃいました。
藤平:リーダーシップを養っていただいたのは、この筑波技術大学だと思います。アメリカでの研修旅行の際もリーダー役として指示しながら動くことの大変さもわかりました。
学長:堀米さんは?
堀米:今はパナソニックに変わっていますが当時の三洋電機が群馬にありまして、そちらで14年間、大学で学んだことを生かして半導体の開発に携わっていました。退職後、群馬にある情報提供施設に転職して12年目になります。会社の仕事も楽しくて非常に良い環境でしたが、並行して地域の聴覚障害者協会で活動する中で情報提供施設の施設長からお声がけをいただき転職しました。
学長:技術者として、ずっとやっているイメージがあったけども。
堀米:おっしゃる通りで自分もそう思っていましたが、同じ会社のろうの人たちが、ろう協で活動をしていて、一緒に活動するうちにそちらに入ってみたい気持ちが芽生えました。
今、役立っている「学生時代に学んだこと」
学長:技大で学んだこと身につけたことが、今でも役立っていることってなんだろうか?
堀米:活動に行き詰まった時に本音を吐ける友達がいること。技術大学にいた藤平さんと瀬川さんと、よく会うことができる。それが一番大きな財産かなと思います。もう一つは、自分が障害を持っているという障害認識、アイデンティティを育てる。できないことをはっきりと相手に伝える。そこを補うセルフアドボカシーという精神。それはこの技大で身に着けたことだと思います。会社では聞こえる人ばかり。まず、「私は聞こえない。電話はできません」と、はっきりお伝えしました。私の机に電話はあるけれど、鳴っても取らないです。代わりに遠くにいる同期の方々がわざわざ取ってくれる。皆さんのご協力でそのような環境を作れたので、会社で14年間働けたと思います。
学長:そこに力を入れた、セルフアドボカシーなど具体的な技術や意識を身につけられるコースをこれから作ろうとしています。
藤平:昨年、全国手話通訳問題研究会にて石原先生のご講演を拝聴いたしました。「暗黙知」という言葉がまだ、ろうの学生たちに伝えるのが難しいというお話が記憶に残っています。相手が何を言いたいのかをつかむことは、やっぱり社会経験を積み重ねないとなかなか難しいと思います。(技大入学前に)年配の方に「手話がわからない」と言われたんです。「指文字が多いためにわからない。同じろう者なのに、ろう者だと思えない」と。それで技大に入って、アメリカに行かせていただくとか、ろうの友達とおつき合いする中で、いろんなろう者がいることを理解し、専門知識を学ぶだけではないプラスアルファが必要だと技大の環境で培われたと思います。
瀬川:私も、この大学で学んだ3年間で自分自身の障害についてアイデンティティも確立することができたと思います。聞こえる方たちに対して説明をしていくのはもちろんですけれど、聞こえない方も色々なタイプの方がいらっしゃるわけですよね。それぞれのタイプに合わせた対応力が求められます。これは聞こえる方同士でも変わらないと思うのですが。それは学生時代に身に付いたことかなと。そして今の仕事でも役立っていると思います。
堀米:一つの場所に聞こえない学生たちが集まって交流を持つことができるのは、他の大学にはない点ですよね。
瀬川:例えば文章が苦手な聞こえない方もいらっしゃいますよね。そういう方がいた時に放っておかないということ。それがこの大学の強みでもあるかなと思います。
藤平:お互いにどうやって協力していくのか、協力し合うことを考えていく場でしたよね。
学長:コミュニティの中で、お互いに学ぶ環境が成長のきっかけになっているんだな。
技大ができること、期待していることは?
藤平:私は石川県の聴覚障害者センターの施設長として、また全日本ろうあ連盟の理事を担う立場で考えますと、今の日本は国レベルで情報保障ができる体制というのがありません。聴覚障害情報提供施設は、県もしくは政令指定都市にそれぞれありますが、国レベルの情報保障の施設があるか、例えば東京の情報文化センターが相当するのかというと、まだその実感はありません。補完できる役割を技術大学が担っていただけるのではないかと感じています。
瀬川:補完ではなくてぜひ積極的に引っ張っていただけるような。
堀米:そうですね。率先してそれをやっていただけるといいですね。
瀬川:この大学構内を歩くのも久しぶりでした。ポスターなどの掲示の中に、技大が構築した情報アクセス、情報保障システムに関してのポスターもあったので、こういうものを積極的にアピールされると良いと思います。
堀米:一番情報アクセシビリティの技術が様々に開発されているのは、この技術大学だと思います。大学院もありますので、深く研究が進むと良いし、技術も含めて支援者も増えていくのが理想かなと思っています。もう一つは学生のみんなが、ろう運動のリーダーとなっていただくこと。そういう人材を育てる意味で、今、大杉先生のご担当されているコースや授業というのも非常に重要だと思っております。聞こえない自分自身のアイデンティティを養う、非常に大事な学問ですね。社会資源に関わる仕事ができる人材を育成していただければ非常に嬉しく思います。
大杉先生:3年ぐらい前から新しく支援技術を学べるコースができました。去年も新しい授業で社会資源に関する授業が始まり、私も埼玉のどんぐりの家など学生を引率しました。
藤平:いいことですね。
大杉先生:聞こえない人たちが自分たちの環境をより良くするための知識と技術を学び、社会の状況を体験して学ぶ取り組みが始まっています。
堀米:いいですね。10年前20年前にもそれがあればよかった。
学長:体験を通して自分自身のアイデンティティと周りとの関係を作っていける人間を育てる。教える。自分で学ぶ。そういうカリキュラムをたくさん入れたものを、聴覚と視覚、両方で作ろうと思っています。まだまだ、これからなんだけれども。
瀬川:国との交渉が必要なときは、ぜひ私達3人を呼んでくださればと思います。
デフリンピック2025に向けて本学に期待すること
藤平:まず期待することはアスリートを育成してほしいということです。デフリンピックに参加できるレベルの選手がいれば、どんどん排出してほしい。
堀米:経済的な面で学生が選手として参加するためには支援も必要ですよね? そういう環境になればと思っています。もう一つは、筑波大学と共同してアスリートを、スポーツ科学的に分析し、技術を伸ばすということもできないでしょうか? デフリンピックにしかないことといえば、アスリートに対する競技の情報保障に関して、スタートのランプですとか、みんなでそれを学ぶ。で、またPRをしていく。
瀬川:学生のボランティアの話も持ち上がってるようですね。技大が中心になって関東の一般の大学とネットワークを作るのもいいんじゃないでしょうか?
学長:大学間で連携の協定を作って行く事を始めています。他の大学の学生も取り込んで、デフリンピックをきっかけに、もっと進めていけばいいのかなと思います。
藤平:ホストタウンみたいなもの、世界から選手が来た時に練習場を貸す等の検討はされているんでしょうか?
学長:デフリンピックに関連して環境を整備していく、教育を進める計画は、もう決まっています。幸い優秀な先生や職員の方々がたくさんいますので、色々大変なことはあると思うけれども計画通り進んでいます。
藤平:学長に質問したいのですが、実際に学生たちが集まっているかという点ですね。魅力があれば学生もおのずと集まってくるのではと思います。技大に行くと言ってくださる学生もたくさんいます。そういう意味でも、ぜひ目指したい大学であるということが重要だと思います。
堀米:この技大の中にあるPEPNet-Japanの事務局の支援のおかげで、一般の大学に入る聞こえない学生も増えました。ろう学生にとって選択肢が増えています。だけど技大にしかない魅力があるという点で、この大学は非常に大事だと思います。もっともっと外に向けてアピールしていただけると良いと思います。
学長:「ここだから学べる、ここを卒業すればできる」っていう魅力を作る。それを皆がわかるように宣伝する。そこは力を入れて行こうと思います。聴覚、視覚、その他にも多様化してるけれど、それに合わせて教育をやるのが技大という場所です。それは他の大学ではできないと思います。宣伝には卒業生も協力してもらう予定ですので、皆さん、よろしく。(笑)今日は来てくれてありがとう。